女子限定のボクシングジムである愛枷ジム。ジムの看板を背負うツートップであるゆうことうめかは、他の練習生の女子たちが汗を流す中、隅っこでフェルト地の地面に胡坐をかきながら横並びになっていた。
「ねぇ、ゆうこ?」
うめかの呼びかけにゆうこが顔だけを向ける。
「なに?」
面倒臭そうな顔に声で聞き返すゆうこは、
「こういう招待状をうけて…」
うめかが手にする封筒を目にした途端、渋いお茶を飲んだ後のようなしかめっ面をした。
うめかが手にする封筒、それは、Blow of Fate – Dream tournamentの招待状だった。
「いやよ」
ゆうこがそっぽを向いて言った。
「なんで?」
「君にはいい思い出として残ったかも知れないが、私にとっては悪夢だったから」
ゆうこにとってBlow of Fateは、トーナメントの1回戦で反撃もできずKOされた記憶でしかなかった。
「ボクサーとしての実力がないんじゃないか」?という意見もあるほどその試合は彼女にとってトラウマとなり、その後のリベンジマッチはそんな彼女の評価を完全にひっくりかえした名試合と評価されるが、結果的にはゆうこの負けで終わった試合だった。
「とにかく、私はBlow of Fateには参加しない。」
「ゆうこ…。」
冷笑的というか悲観的というか… Blow of Fateに参加することになったころとはあまりにも変わっていた。
そんな格好で負けてしまった自分を許せなくなったのだ。
「では、憧れの裕子さんとの試合は?」
「さあな……やめようか」
その不貞腐れっぷりはヤケ酒を飲んだオッサンのようでもある。
「なら、今回が最後の機会なのに、やめちまうの?」
「え?」
ふくれっ面を続けていたゆうこが真顔に戻る。
「どうやら参加するらしいよ、その裕子さんが。」
うめかが手にしていた封筒には現在参加しているチームの一覧も同封されていた。そのエントリーには確かに山神裕子と書かれた名前があった。 名前だけだったが、ゆうこに「それくらいで諦めて逃げるつもりかな?」と言っているようだった。胡坐をかいて座っていたゆうこが膝を叩いて立ち上がる。そして、胡坐をかいて座ったままのうめかを見下ろして言った。
「何してるんだ君は、練習しなきゃだめじゃないか」
練習に戻るゆうこの背中をぽかんと呆れた顔で見続けたうめかもはぁっと言いながら立ち上がる。その口元には微笑みが浮かべられていた。
その後のことはあっという間に済み、Victory road参加者決定戦の決勝でうめかに負けたうさぎもチームのメンバーに加わることになる。これが「Team愛伽ジム」の結成譚だった。
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