「すげぇ闘いだったけど最後はやっぱり鷹羽だったな」

「これで連覇達成だ。当分鷹羽の時代が続きそうだな」

「鯉住も相当強くなってきてるんだけどな。この三年で二度のセントラルリーグ制覇だ。名実ともに間違いなくトップ選手の一人だよ」

「まぁそれでも日本一は無理っしょ。セントラルリーグ最強といってもパシフィックリーグの方がレベルは上ってのが共通認識だしな」

「いやぁ分らんぞ。彼女の成長の度合いは計り知れんからなぁ」

熱戦の果てにNPB日本王座戦を鷹羽南海が制して一週間。東京都内ではNPBアワード(総合表彰式)が行われていた。

敢闘賞、技能賞、ベストKO賞などが発表されていき、残るは最優秀選手だけとなる。
その選手はもちろんNPBリーグを制した鷹羽南海に他ならず、拍手を浴びながらステージに立つ。
表彰を授与した南海はマイクスタンドの前に立った。そして、スピーチを始めるまさにその時であった。
後ろの大きなモニター画面に一人の女性の顔が映しだされる。

褐色の肌、銀色の髪、そして、精悍な目。

その場にいる誰もが彼女の名前を知っていた。知らないはずがなかった。

「アイリーン・ロドニー・・・」

記者の一人が呆然とした顔でそう名前を呟いた。

アメリカで行われている世界最高峰のボクシングリーグ、MLBリーグを今年制した女。いや、正確には三年連続である。

クイーンオブクイーン。

そう称され世界最高峰のボクシングリーグでも敵無しの彼女がなぜ・・・。

どよめきが止まない中、画面の中の彼女はゆっくりと口を開いた。

NPBリーグ制覇おめでとうMs.タカハ」

祝福の言葉とは裏腹に高みの位置から見下ろすかのような目線を向けられている。南海はじっと黙って画面の奥にいる彼女の顔を見つめ続けていた。

NPBリーグ二年連続制覇。その実力はMLBリーグでも通用するという噂は海の向こうのこちらにまで届いている。どうだ、わたしと試合をしてみないか?」

南海はアイリーンの顔を直視したままだった。それから十秒がゆうにすぎてようやく南海は言葉を発した。

「なんかその上からな物言いがむかつくんだけど」

「上から?何寝ぼけたこと言ってるんだ、私は果たし状を渡したんだ。優しい口調で言えるわけないだろ。それとも日本特有の誠意がなんたらと難癖つけて逃げようって腹かい?」

それからまた南海は無言でアイリーンを見続ける。唇が噛み締められその視線の険しさが一段と増し彼女が口を開けかけたその時、

「いいかげんにしてください!!」

怒鳴り声を出したのは南海ではなかった。

星型マークのついたリボンを胸につけた青のドレスを着た少女、ミラクルマシンガン、浜野星だった。

「南海さんは臆病な娘なんかじゃないです。あなたの失礼な物言いに呆れてるだけで、はっきり言ってあなたみたいな傲慢な人はわたしで十分ですよ!!」

よくぞ言った。星の啖呵を切る言動に館内は大いに沸く。

とはならず、大多数の口があんぐりとあいてしまってる。

いやいや、わたしで十分ってあんた、今年のリーグ戦負け越してるんだから。

「ん?なんだお前は。誰だ?」

「わたしは神奈川地区代表のNPBボクサー浜野星。日本シリーズにも出てます!」

いやだからそれは去年で今年はリーグ戦負け越してるって。

関係者がどう星を止めようかと戸惑っているうちにアイリーンが

「面白い。だったらMLBリーグとNPBリーグのボクサーで五対五の団体戦はどうだ?」

「あぁ、面白そうやなぁ」

星よりも先に返事をしたのは大阪が誇る美しきバッファロー(あくまで自称なのだが・・・)、牛久織姫であった。

「うちもボクシングの本場のレベルに興味あったし」

「あぁ・・・織姫さん、わたしがアイリーンと話してたんだから」

「かんにん、かんにん。でも、それだったら南海とだったんやないの」

「あっそうだった。ごめんなさい南海さんつい・・・」

そう言って星は南海に顔を向けて両手を合わせて頭を下げる。

南海は無言で星に向けて頭を下げて応じた。そして、またアイリーンへ険しい視線を戻す。

「いいよ。五対五の団体戦。受けて立つよ」

この瞬間、女子ボクシングの歴史的な闘いが幕を開けた。