女子ボクシング創作サイトの初期にあった風景として、スパッツを着た女子ボクサーがありました。スパッツを着た女子ボクサーと言われて、ぱっと思い出されるのは、ベイトさんのキャラクターである松谷祐子、 が多いのかなと思うのですけど、そう、こういう女子ボクサーです。

 

 彼女はサイトの看板娘で、とても重要な立ち位置にいるのですけど、その彼女がスパッツを着ているのだから、 スパッツがごくごく普通に受け入れられていた表れなのかなと思います。松谷祐子は元は空手家だったからスパッツを着て試合をしていたという背景はあるのでしょうけど。

 

 しかし、現実にボクシングはトランクスを着て闘う競技で、それは女子も同じであって、スパッツを着て試合をした選手を見たことはありません。それは女子ボクシングが日本のボクシング協会から正式に認められる以前に行われていた女子ボクシングの興行においてもそうでした。選手は誰もがトランクスを着ていて、時折、ジャージのような足のくるぶしまで隠れる長いズボンを履いて試合をしていた選手もいた記憶もありますけど スパッツを着た選手は見たことがありませんでした。

 

 しかし、創作の世界ではスパッツを着た女子ボクサーがいろんな人によって描かれていました。僕が初めて目にしたのは、1999年ごろに女子ボクシング創作サイトで活動されていたなっくるずさんのイラストで、 なっくるずさんも自身のオリジナルキャラクターの主人公という位置づけの橋野あかねにスパッツを着させていました。

 

 なぜか主人公のあかねがスパッツで、ライバルキャラクター的位置付けに思われた神城リオナウォンがボクシングの正装ともいうべき トランクスを着ていて、普通は逆にするもんじゃないかと思うものですけど、しかし、そのイラストは有無を言わせない説得力に満ち足りていました。

 

 あかねというキャラクターは自由奔放な性格なのかなとか、リオナは格式高い名門の家柄のお嬢様でだからこそ伝統あるトランクスを着ているのかなとか、 その背景を想像するのもとても楽しかったですし、なにより主人公とライバルキャラクター(ライバルだったのか分からないのですが)の対比がコスチュームからもはっきりと出ていて良かったです。

 

 二人のキャラクターの個性を出す上でとても重要な役割を果たしてますし、女性特有の華もリングの上に添えられたかのような役割もあったかのようにさえ思えてきます。そして、偶然なのか必然なのかは分からないですが、なっくるずさんの看板娘である橋野あかねもスパッツを着ていたのですから、 そのインパクトはとても強くて、僕の中でごくごく普通にスパッツは受け入れられて、重要なアイテムの一つとなりました。

 

 その後、僕も女子ボクシングの絵を描くようになり、時折スパッツを着た女子ボクサーを描いたりもしました。 でも、悲しいかな表現不足であまり魅力的に描けなかったかなと今思うと感じます。ともあれ、女子ボクシングの創作で初期によく見られたスパッツを着た女子ボクサーの流れはなっくるずさんによって始まったのではないかと思います。

 

 しかし、ネット上という制限をなくせば、商業誌では1994年に発表された「オー舞ガッツ」という女子ボクシング漫画で、 スパッツを着て試合をした女子選手がいました。そのキャラクターは主人公と対戦する相手で、 学園の理事長の娘という設定だったので(記憶が少し曖昧ですけど)いわばお嬢様でした。その後も2006年あたりには韓国の女子ボクシング漫画で「DUKE」という漫画があることが分かり、女子ボクシング創作界隈では たちまちその存在が広まったのですけど、その漫画でも主人公の対戦相手がスパッツを着て試合をしました。そのキャラクターも韓国語なので話の内容は把握できていないのですけど、名門の家柄のお嬢様のようで高貴な雰囲気をそなえた女性でした。

 

 商業誌でもごくごく普通にスパッツを着た女子ボクサーが試合で描かれているのですから、 女性がスパッツを着てボクシングの試合をするという発想もごく普通のこととして出てくるものなのかなと思えます。その後、日本では女子ボクシングが正式に公認されて、男子と同じように一つの興行の中で試合が組まれるようになっていきました。 公認される前の興行と違い、規則が厳しくなっているでしょうから、選手の服装も上はいろんな服装が見られますが下はトランクスという形通りに上がる選手が さらに増えたように思います。

 

 不思議なもので、それ以降商業誌においてもネット上においてもスパッツを着た女子ボクサーがほとんど見られなくなっていきました。 女子ボクシングは公式に認められていなかった時代だからこそ、発想における制約が少なくて、出てきたアイデアとして表現されてきたのかなと思います。 僕も昔のようにスパッツを着た女子ボクサーをデザインしようという気にならないもので、そう考えると不思議なものを感じます。