試合開始のゴングが鳴ると、レーシャが体格の利を生かして序盤から試合を優勢に進めた。しかし、第5Rになりレーシャの古傷がある右肩の状態が悪化し本子が挽回を始める。徐々に本子が優勢になり、そして第7R。本子がレーシャをロープに詰めてラッシュが火を噴く。強烈な左フックにレーシャの口からは勢いよくマウスピースが吹き飛ばされていく。ここでレフェリーが割って入り試合終了のゴングが鳴った。
レフェリーに抱えられたまま動けないレーシャだったが、本子に声をかけられると顔を上げ、レーシャは本子の闘いを称えた。本子は「次はその肩の傷が完治した時にまた闘おうね」と言った。レーシャは目を閉じて「何もかもお見通しなのね」と言い左手を差し出した。本子は握手に応じて、そして二人は激闘の熱が今も帯びている身体同士で触れ合い抱擁を交わした。レーシャは「あなたの優勝を願ってるわ」とそっと囁き、本子も「うん」と頷いた。誰にも聞こえない小さな声でのやりとり。それは二人だけの秘めた約束であるかのように。
〇日向本子(7R 1分5秒TKO)レーシャ・В・クルチャスコーワ●
※イラスト:Azasketさん