恋したっていいじゃない

 

作者:真木野ばお

掲載誌:週刊少年ジャンプ増刊

 

90年代初頭のころ、週刊少年ジャンプで連載されていたバスタードが打ち切られ週刊少年ジャンプ増刊号に移籍という形で連載が再開されました。当時僕はバスタード目当てで増刊号を購読していたのですけど、この頃は時折女子プロレスを題材とした漫画が掲載されていてその度にそっちもどきどきしながら読んでいました。この作品もその一つで、増刊号はジャンプの新人のための雑誌で多くの漫画家の卵の読み切りが掲載されていてこの漫画の作者である真木野ばおもジャンプで連載を目指す新進気鋭の漫画家の一人でした。当時は可愛らしい絵柄だなぁという印象しか持ちませんでしたが、改めて読むと名探偵コナンの作者の絵柄と少し近い雰囲気も感じます。

 

ストーリーは若手のスポーツの新聞記者がプロレスの部署に異動になり女子プロレスを担当することになり、初めてとなる女子プロレス観戦でメインイベントの試合に出た団体の看板レスラー藤乃不二美の闘う姿に惹きつけられます。彼女はアイドル顔負けの可愛らしい顔をしているのに荒々しいファイトをしでもその後ろにどこか見え隠れする捉えどころのない寂しさが感じられたのでした。彼女のことが気になって取材で団体の練習場を訪れ彼女に挨拶するも素っ気ない返事をされ挙句に同僚の同期の女子の新聞記者に場をリードされている姿を「情けないやつ」と言われる始末。

 

その後も不二美のことが気になる主人公ですが、ある日不二美がデートをしている男性に肩を触られ思わず投げ飛ばしてしまうシーンを目撃します。不二美は男に身体に触れられると身体が反射的に攻撃してしまうのでした。主人公は不二美の同僚の女子プロレスラーからその事情を聞かされます。当時まだ学生だった彼女はお嬢様学校で男子禁制の寮生活を送っていてひそかに文通をしている相手がいました、その人への思いは美化されたイメージで膨らんでいき彼女は学校を卒業します。彼は卒業式の日に迎いに行くと約束していました。ついに彼と会える。そんな思いを抱きながら校舎を出るとその矢先、見知らぬ男からいきなり彼女は唇を奪われます。その相手は文通の男でした。思い描いていたイメージとも違い乱暴な行為を取られそのトラウマで彼女は男に触れることが出来ない体質になったのでした。

 

その事情を知った主人公は彼女の男に触れない体質を直そうと決意し率先して彼女の体に触れて挨拶するスキンシップを図ります。しかし、彼女の体質は相当なもので体に触れられるたびに主人公にプロレス技をかけてしまいます。めげずにスキンシップを図ろうとする主人公に最初は良い感情はなく気にも留めていなかった不二美ですがそういった感情も無くなっていきでも身体は反応してプロレス技をかけてしまい複雑な思いを抱いていくようになり……。

 

あらすじのとおり試合シーンの描写はあまりなく、スポーツ漫画というよりラブストーリーです。しかし、男に身体が触れられるのが苦手という設定は女子プロレスラーととても相性がよくまた最初からそうなのではなくて当初は恋にロマンスを抱くお嬢様だったのがある出来事がきっかけでトラウマを抱え男の身体に触れるのが恐くなるというギャップもまた秀逸だと感じます。そのトラウマとなった出来事の後、どういう経緯で女子プロレスラーになったのかは描かれていませんがそういった過程を想像するのも楽しいですし、女子プロレスラーの恋という作品として読むととても良く出来た作品ではないかと思います。